個人事業主が陥りやすい失敗⑥:補助金や助成金を活用しない機会損失
はじめに
「自己資金だけで何とかしなければ」
「補助金なんて難しそうだし、自分には関係ない」
「申請書類を作るのは面倒だから後回し…」
このような考えが頭をよぎったことはありませんか?多くの個人事業主が陥る第4の失敗パターンが、この「補助金や助成金の存在を知らない・活用していない」という問題です。せっかく使える制度を知らずに自己資金だけで苦しくなるケースが非常に多いのです。
前回までの「明確なビジネスプランがない」「ターゲットが曖昧」「情報発信の後回し」に続き、今回は使えるはずの資金を見逃してしまうというテーマで、その原因と対策を探っていきます。
よくある失敗例:全てを自己資金でまかなおうとしたWebデザイナー
5年間勤めたWeb制作会社を退職し、貯金200万円を元手に独立することを決意しました。Webデザインのスキルには自信があり、「あとは環境さえ整えれば」と考えていました。
斎藤さんの行動と結果は以下のとおりでした:
1. **自己資金に頼った開業準備**
– オフィス賃料(敷金・礼金含む):80万円
– 高性能パソコンとモニター:50万円
– デザインソフトの購入:30万円
– オフィス家具・備品:25万円
2. **資金繰りの現実**
– 開業費用だけで貯金のほとんどを使い切る
– 運転資金の不足(生活費・固定費の支払いが厳しい)
– クライアント獲得までの「空白期間」の想定不足
– クレジットカードでの支払い繰り延べに頼る状況に
3. **後から知った残念な事実**
– 友人から「創業補助金」の話を聞く
– 「小規模事業者持続化補助金」も活用できた可能性
– 申請していれば50〜200万円の補助が受けられた可能性
– 適切な計画と申請をしていれば、余裕を持った事業展開が可能だったことに気づく
「自分一人でやるんだから」という独立精神から、支援制度の調査を怠ったことが、斎藤さんの大きな反省点となりました。
「自分一人でやるんだから」という独立精神から、支援制度の調査を怠ったことが、斎藤さんの大きな反省点となりました。
多くの個人事業主が補助金や助成金を活用していません。なぜこのような状況が生まれるのでしょうか?
1. 情報不足:制度の存在自体を知らない
補助金・助成金を活用しない最大の理由は、単純に「知らない」ということです:
– **情報収集ルートの不足**:経営者仲間やメンターがいないと情報が入ってこない
– **積極的に調べる習慣の欠如**:「自分には関係ない」と思い込んでいる
– **情報の複雑さ**:さまざまな制度が乱立し、全体像が把握しづらい
特に独立したての個人事業主は、顧客獲得や業務遂行に忙しく、こうした制度調査に時間を割けないことも多いでしょう。
2. 申請の複雑さへの恐れ
補助金・助成金の申請手続きは確かに簡単ではありません:
– **書類作成の負担**:事業計画書など専門的な文書作成が必要
– **審査への不安**:「どうせ通らない」という諦めの気持ち
– **時間的コストへの懸念**:「申請書を作るより仕事をした方が良い」という思い込み
しかし、書類作成に苦労しても、採択されれば何十万円、何百万円という資金が手に入る可能性があります。数日の作業で得られる対価としては非常に大きいのです。
3. 「自力で」という固定観念
日本人特有の「自力主義」や「支援に頼るのは甘え」という考え方も障壁になっています:
– **独立精神の行き過ぎ**:「自分の力だけでやり遂げたい」という願望
– **公的支援への抵抗感**:「お上に頼るのは…」という心理的障壁
– **「借りを作りたくない」意識**:何かしらの制約や義務が生じると考える誤解
実際には、補助金・助成金は「起業を促進し、経済を活性化させる」という社会的目的のために設計された制度です。個人の「甘え」ではなく、社会全体のために活用すべきものなのです。
対策:活用できる支援制度を知り、積極的に申請する
では、このような失敗を避けるために、どのようなアプローチが効果的でしょうか?
1. 主要な補助金・助成金を把握する
まずは、個人事業主が活用できる主要な制度を知ることから始めましょう:
**創業期に使える代表的な制度**
– **創業補助金**:新規創業や第二創業の経費を一部補助(上限200万円程度)
– **小規模事業者持続化補助金**:販路開拓や業務効率化の取り組みを支援(上限50〜200万円)
– **IT導入補助金**:業務効率化のためのITツール導入を支援
– **雇用関連の助成金**:従業員を雇用する際の人件費を一部助成
– **自治体独自の補助金**:地域によって様々な支援制度あり(例:空き店舗活用補助金など)
これらは一例に過ぎず、業種や地域によってさらに多くの選択肢があります。定期的に情報をチェックすることが重要です。
2. 相談窓口を積極的に活用する
補助金・助成金申請のサポートを無料で受けられる窓口が各地にあります:
– **商工会議所・商工会**:創業支援から補助金申請まで幅広くサポート
– **自治体の産業振興課**:地域独自の支援制度に詳しい
– **よろず支援拠点**:中小企業庁が全国に設置する経営相談所
– **日本政策金融公庫**:融資だけでなく、経営相談も受け付けている
これらの窓口では、あなたのビジネスに合った制度を紹介してくれるだけでなく、申請書の書き方までアドバイスしてくれることも多いです。
3. 申請書作成のコツを押さえる
補助金・助成金の申請では、審査員を納得させる書類作成が重要です:
– **補助金の目的に沿った事業計画を立てる**:各制度には独自の目的があり、それに合致した計画である必要がある
– **数値目標を具体的に示す**:「売上30%増加」「顧客満足度20%向上」など具体的な指標
– **社会的意義や地域貢献の視点を入れる**:単なる自社の利益だけでなく、地域や社会にどう貢献するかも重要
– **独自性や革新性をアピール**:他にはない新しい取り組みであることをアピール
審査員は「この事業者に補助金を出せば、社会的にも良い効果が期待できる」と感じられる申請書を高く評価します。
成功事例:補助金活用で設備投資と事業拡大を実現
地方で農産物加工品の製造販売業を開始することを決意しました。会社員時代から地元農産物を使った加工品に興味があり、退職を機に本格的に起業することにしたのです。
小林さんの補助金活用アプローチは、以下のようなものでした:
1. **事前の情報収集と相談**
– 開業前から地元商工会に相談
– 「6次産業化支援補助金」の存在を知る
– 「小規模事業者持続化補助金」も活用可能と判明
– 事業計画の作成から申請まで商工会のサポートを受ける
2. **計画的な申請と活用**
– 設備投資(加工機器)に「6次産業化支援補助金」を活用
– 販路開拓費用(ECサイト構築、展示会出展)に「持続化補助金」を申請
– 約150万円の補助金を獲得
3. **結果**
– 自己資金だけでは購入できなかった高性能な加工設備を導入
– 品質と生産性の両方が向上
– 初期投資の負担軽減でマーケティングにも資金を回せた
– 開業1年目から黒字化を実現
小林さんは「補助金申請は手間がかかったが、得られた資金と事業計画を練る過程そのものが、ビジネスの成功に大きく貢献した」と語っています。
実践アドバイス:補助金・助成金活用への第一歩
「補助金申請は難しそう」「自分には関係ないのでは」と感じる方も多いことでしょう。しかし、多くの補助金・助成金は、まさに個人事業主や小規模事業者を支援するために設計されています。
まずは以下の3ステップから始めてみましょう:
1. 情報収集のルートを確保する
– **ミラサポplus**:中小企業向け支援ポータルサイトをブックマーク
– **地元自治体のホームページ**:産業振興や創業支援のページを定期チェック
– **商工会議所のメルマガ**:多くの商工会議所が補助金情報を配信している
– **SNSでの情報収集**:補助金申請支援の専門家をフォロー
2. 無料相談窓口を訪れる
– **商工会議所や商工会**:会員でなくても相談できることが多い
– **自治体の創業支援窓口**:専門のアドバイザーが在籍している場合も
– **よろず支援拠点**:予約制で1時間程度の無料相談が可能
– **オンライン相談の活用**:直接訪問が難しい場合はオンライン相談も
3. 小さな補助金から挑戦する
– **申請がシンプルな小規模補助金から**:持続化補助金は比較的申請しやすい
– **金額よりも経験値を重視**:まずは申請プロセスを経験することが大切
– **不採択でも諦めない**:審査結果を次回に活かす姿勢で
まとめ:補助金は「計画的に活用すべき経営資源」
補助金や助成金は「もらえるかもしれないお金」ではなく「計画的に活用すべき経営資源」です。適切に活用することで、事業の成長スピードを加速させたり、リスクを軽減したりする効果があります。
多くの成功している事業者は、こうした制度を上手に活用しています。独立精神や自力主義は大切ですが、使える制度は積極的に活用する柔軟さも、ビジネスでは重要な姿勢です。
開業前や事業拡大のタイミングで、ぜひ補助金・助成金の活用を検討してみてください。数十万円から数百万円の資金調達が、数日の作業で可能になるかもしれません。それは、あなたのビジネスの大きな転機になるはずです。
次回は「なんでも自分でやろうとして時間を浪費する」というテーマで、経理やデザインなど、自分でやるよりプロに任せた方が結果的にコスパがいいケースについて解説します。どうぞお楽しみに。
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*この記事は「開業したての個人事業主が陥りやすい失敗談10選」シリーズの第6回目です。個人事業主として成功するための知識やノウハウを、全10回にわたってお届けします。*





















こんにちは、愛知県豊橋市を拠点として全国の中小企業の皆さんの、集客と販売促進のサポートを、デザイナーとコンサルタント両方の視点でサポートしている、販促工房の笹野です。