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開業したての個人事業主が陥りやすい失敗談10選 part3

販促軍師

こんにちは、愛知県豊橋市を拠点として全国の中小企業の皆さんの、集客と販売促進のサポートを、デザイナーとコンサルタント両方の視点でサポートしている、販促工房の笹野です。

個人事業主が陥りやすい失敗③:「安さ」の罠と適正価格設定の重要性

はじめに

「最初は安くして、お客さんをつかんでから徐々に値上げしていけばいい」

多くの個人事業主がスタート時にこのような考えで価格設定を行います。一見合理的に思えるこの戦略は、しかし多くの場合、予期せぬ困難を招くことになります。

本記事では、開業したての個人事業主が陥りやすい3つ目の失敗「価格設定が低すぎて利益が出ない」について詳しく解説します。安易な低価格戦略がなぜ危険なのか、そして適正な価格設定をどのように行うべきかを、実例を交えながら見ていきましょう。

「安ければ売れる」の落とし穴:実例から学ぶ

鈴木さんのケース:低価格の代償

40歳の鈴木さん(仮名)

広告代理店でのキャリアを経て、グラフィックデザイナーとして独立を決意しました。20年近い業界経験があったものの、フリーランスとしての実績はゼロ。「まずは実績作りのため」という考えから、破格の価格設定でサービスを開始することにしました。

鈴木さんの価格戦略と、それがもたらした結果は以下のとおりでした:

1. **業界相場の3分の1以下の価格設定**

  • ロゴデザイン1件5,000円(業界相場は3万円〜10万円)
  • 名刺デザイン1件3,000円
  • バナーデザイン1件2,000円
  • リーフレットデザイン1件10,000円

2. **予想通りの殺到する依頼**

  • SNSでの宣伝開始から1週間で20件の問い合わせ
  •  1ヶ月で処理できる量を超える受注

3. **実際に発生した問題**

  •  1つのロゴデザインに平均10時間以上の作業時間(打ち合わせ、リサーチ、デザイン案作成、修正対応)
  • 時給換算で500円以下という労働対価
  • 「安いから」という理由で依頼してくる顧客からの際限ない修正要求
  • 「もう少し安くならないか」という更なる値引き交渉

4. **悪循環の始まり**

  • 睡眠時間を削って仕事をこなす日々が続き、健康状態が悪化
  • 過剰な仕事量により、1つ1つの品質が低下
  • 低品質によるクレーム対応に更に時間を取られる
  • 価格を上げようとすると「前は安かったのに」とクライアントから反発

5. **最終的な結果**

  • 開業後6ヶ月で貯金を使い果たし、クレジットカードの支払いも滞りがち
  •  精神的・肉体的に疲弊し、創造性も低下
  • 「安いデザイナー」というレッテルが定着し、適正価格での新規顧客獲得が困難に
  • 独立前よりも収入が減り、労働時間は増えるという最悪の状況

鈴木さんは「たくさんの実績を作れば自然と価格を上げられる」と考えていましたが、実際には「安いデザイナー」というポジションから抜け出せなくなっていったのです。

 なぜ低価格戦略は個人事業主を苦しめるのか?

一般的なビジネス戦略として低価格戦略は決して間違いではありません。しかし、特に個人事業主やフリーランスにとっては、以下のような深刻な問題を引き起こしやすいのです。

 1. 「安さ」で引き寄せた顧客は「価格」だけで動く

低価格を最大の魅力として集めた顧客には、以下のような特徴があります

 **価値よりも価格を重視する**:提供する価値や品質ではなく、いかに安いかだけで判断する

  • **ロイヤルティが低い**:もっと安い選択肢が現れれば、すぐに乗り換える
  • **要求水準が高いことが多い**:「安いのだから」と妥協せず、高額サービスと同等以上の品質や対応を求める傾向がある
  • **値上げに極めて敏感**:わずかな値上げにも強く反応し、「裏切られた」と感じる

こうした顧客は、長期的なビジネスパートナーとしては必ずしも理想的ではありません。

2. 利益率の低さを数でカバーするのは個人には難しい

大企業が採用する「薄利多売」戦略は、個人事業主には適していません

  • **処理能力の限界**:個人の労働時間や処理能力には明確な上限がある
  • **スケールメリットの欠如**:大量発注による原材料費の削減や効率化が難しい
  • **固定費の負担**:事務所費、設備費、保険料などは案件数に関わらず発生する
  • **在庫リスク**:商品を扱う場合、大量仕入れによる在庫リスクを個人で負うのは危険

利益率が低いビジネスモデルは、規模の経済が働く大企業には有効でも、個人事業主には持続不可能なことが多いのです。

 3. 値上げが極めて困難になる

一度安く設定した価格を後から上げることは、想像以上に難しい課題です

  • **既存顧客の反発**:「前は安かったのに」という不満や離反が生じやすい
  • **市場での評判固定**:「あの人は安い」という評判が定着し、新しい価格帯の顧客層に届かない
  • **自己評価の問題**:「今まで安くしていたのに、なぜ今更値上げできるのか」という自信の欠如
  •  **値上げの説明困難**:単に「生活が苦しい」では納得されず、価値の向上を示す必要がある

これらの理由から、最初から適正価格で始めるか、少なくとも計画的な価格設定が重要になります。

4. 自分の価値を下げてしまう

価格は価値の指標として認識されるため、低価格設定は自らの価値を過小評価することにつながります:

  •  **「安い=レベルが低い」という認識**:特に専門性の高い分野では、低価格が低品質と結びつけられやすい
  • **プロ意識の欠如と見なされる**:自らの技術やサービスに自信がないと解釈される
  • **クライアントからの尊重の低下**:安価なサービスは軽視され、要求だけが厳しくなりがち
  •  **自己ブランディングの失敗**:「コスパの良い選択肢」ではなく「安物」というポジションに固定される

一度確立した市場での位置づけを変えることは、新規参入時よりも難しいことを理解しておく必要があります。

5. 疲弊して質が下がる悪循環

低価格戦略が最終的に引き起こすのは、以下のような悪循環です:

  • **過剰な労働量**:収入を確保するために多くの案件をこなす必要がある
  • **品質低下**:時間や体力の制約から、1つ1つに十分な注力ができなくなる
  • **クレーム増加**:品質低下によるクレームや修正依頼が増える
  • **さらなる時間的圧迫**:クレーム対応に時間を取られ、新規案件の処理が滞る
  • **精神的・肉体的疲労**:余裕のない状態が続き、創造性や判断力も低下
  • **モチベーション喪失**:努力に見合わない対価に失望し、仕事への情熱が消失

この悪循環は、最終的には事業継続そのものを危うくします。

対策:適正価格を設定するための5つのステップ

適正な価格設定は、事業の持続可能性を左右する重要な要素です。以下の5つのステップで、あなたのビジネスにとっての適正価格を見つけましょう。

1. コスト計算を徹底する

まず、提供するサービスや商品に関わるすべてのコストを洗い出します

**直接コスト****間接コスト****具体的な計算例**
材料費・仕入れコスト事務所・作業場の家賃(自宅の一部を使用する場合も按分計算)例えば、ロゴデザインの場合
自分の労働時間(時給換算) 設備費(パソコン、ソフトウェア、工具など)の減価償却費平均作業時間:10時間
 外注費光熱費、通信費目標時給:3,000円
 配送料・交通費保険料PC・ソフトウェア使用料:1,000円/件
マーケティング費用 通信費・光熱費:500円/件
税金と社会保険料事務所費按分:1,000円/件
 税金・社会保険の準備:売上の30%

この場合の最低価格は:

(10時間×3,000円)+1,000円+500円+1,000円=32,500円
これを税金・社会保険に備えて1.3で割ると:42,250円

つまり、持続可能なビジネスとするには、最低でも4万円程度の価格設定が必要になります。

2. 競合調査をする

同レベルのサービスの相場を知ることは、市場に受け入れられる価格帯を把握するために重要です

  • **直接競合の価格調査**:同じサービスを提供する他の事業者の価格帯
  • **間接競合の価格調査**:類似サービスや代替手段の費用
  • **価格の分布を把握**:最も安い価格から最も高い価格まで、どのような分布になっているか
  • **何が価格差を生んでいるのか**:高額サービスと低価格サービスの違いは何か

例えば、ロゴデザインの場合:

– 低価格帯:5,000円〜2万円(テンプレート使用、修正回数制限あり)

– 中価格帯:3万円〜10万円(オリジナルデザイン、複数案提示)

– 高価格帯:15万円〜50万円(徹底的な市場調査、ブランディング戦略込み)

この調査から、自分のサービスがどの価格帯に位置づけられるべきかを考察します。

 3. 価格ではなく価値で勝負する

価格競争は個人事業主にとって勝ち目の薄い戦いです。代わりに、価値の提案に焦点を当てましょう

  • **提供価値の明確化**:「なぜそれだけの価格なのか」を説明できるようにする
  • **他にはない強みの強調**:あなたにしかできない特別な価値は何か
  • **ROI(投資収益率)の提示**:クライアントが得られるリターンを具体的に示す
  •  **価値を伝えるストーリー作り**:数字だけでなく、感情に訴えかける価値提案

例えば

「単なるロゴではなく、お客様の目に留まり、記憶に残り、ブランドの世界観を伝えるビジュアルアイデンティティを提供します。当社のデザインは平均で顧客認知度を25%向上させ、リピート率を15%高める実績があります」

4. 値上げを前提としたプラン設計

最初から適正価格で始めるのが理想ですが、段階的な値上げを計画するなら、以下のポイントに注意しましょう

  •  **期間限定の明示**:「お試し価格は○月○日まで」と明確に伝える
  •  **条件付き特別価格**:「最初の5名様のみ」「モニター価格」など条件を明確に
  •  **段階的な値上げ計画**:初めから3段階くらいの値上げスケジュールを立てておく
  •  **既存客への優遇措置**:値上げ時に初期からの顧客には特別条件を提示

例えば:

「現在のロゴデザイン料金2万円は、ポートフォリオ強化キャンペーンとして先着10社様限定です。11社目からは3万円、3ヶ月後からは正規料金の4万円となります」

 5. セグメント別の価格設定

単一価格だけでなく、異なる予算帯の顧客向けに複数のプランを用意することも効果的です

  • **エントリープラン**:必要最低限の機能・サービスを低価格で提供
  • **スタンダードプラン**:最もコストパフォーマンスの良い中核サービス
  • **プレミアムプラン**:付加価値の高い最上位サービス

例えば、ロゴデザインの場合:

– ベーシックプラン(3万円):1デザイン案、修正2回まで

– スタンダードプラン(5万円):3デザイン案、修正5回まで、名刺デザイン込み

– プレミアムプラン(10万円):5デザイン案、無制限修正、名刺・封筒・レターヘッドデザイン込み

この方法なら、「高すぎる」と感じる顧客にも選択肢を提供しつつ、より高い価値を求める顧客には適切なプランを提案できます。

成功事例:適正価格への転換がもたらした好循環

 中村さんのケース:低価格からの脱却

32歳の中村さん(仮名)

出版社での経験を活かしてウェブライターとして独立しました。最初は「まずは仕事を取ること」を優先し、クラウドソーシングで1文字0.5円という低単価で仕事を受注していました。

しかし、この価格設定では以下のような問題が発生しました:

– 月収10万円を稼ぐためには、20万文字(400字原稿用紙で500枚相当)を書く必要がある

– 質を保ちながら書くと1日5,000文字が限界で、月収は7万5千円程度

– 家賃、食費、保険料などを考えると、生活が立ち行かない状況に

このままでは挫折すると感じた中村さんは、ビジネスモデルの見直しを決意し、以下のように転換しました

1. **専門特化型ライターへの転換**

  • 「BtoB企業向け専門ライター」として再出発
  •  過去の勤務経験があったIT業界に特化
  • クラウドコンピューティングやSaaSなど特定分野の深い知識を獲得

2. **価値提案の明確化**

  • 「単なる文章制作」ではなく「御社の商材が伝わるコピーライティング」として価値を再定義
  • 成果(資料請求率、コンバージョン率)にコミットする姿勢を前面に
  • 「専門知識×ライティングスキル」の掛け合わせによる差別化

3. **価格設定の転換**

  • 1文字3円〜という市場相場の上位価格帯に設定
  • 「文字数ベース」から「プロジェクト単位」の料金体系も導入
  • 最低受注金額を設定(5万円以下の案件は受けない)

当初は仕事の件数が大幅に減少しましたが、中村さんは焦らず専門性の向上と営業活動を続けました。3ヶ月後、最初の大型案件を獲得。その後も少数の良質なクライアントを獲得していき、現在では以下のような状況になっています:

– 月に5〜6件のプロジェクトで以前の3倍の収入を実現

– 労働時間は以前より30%減少

– 固定クライアントからの継続案件が80%を占める安定した事業構造

– 余裕ができたことで自己研鑽の時間も確保でき、さらなる専門性向上につながる好循環

中村さんが成功した最大の要因は、「安く大量に」という罠から抜け出し、「高品質で適正価格」というポジションを確立できたことにあります。

## 実践アドバイス:適正価格設定の心理的障壁を乗り越える

「でも高いと売れないのでは?」という不安は、多くの個人事業主が抱える悩みです。この心理的障壁を乗り越えるためのアドバイスをご紹介します。

### 1. 生活に必要な収入から逆算する

まず、自分自身の生活に必要な収入を明確にしましょう

1. 月々の必要生活費を計算(家賃、食費、光熱費、通信費、保険、交際費など)

2. ビジネスに必要な経費を加算(事務所費、材料費、ソフトウェア代など)

3. 税金と社会保険料を加算(売上の30〜40%程度)

4. 余裕資金・将来への投資分を加算(売上の10〜20%程度)

5. 実際に働ける日数・時間で割る

例えば:

– 生活費:20万円/月

– ビジネス経費:5万円/月

– 税金・社会保険:10万円/月

– 余裕資金:5万円/月

– 合計:40万円/月

月に15日、1日6時間働くとすると:

40万円 ÷ (15日 × 6時間) = 約4,444円/時間

つまり、この場合は時給4,500円以上を確保できる価格設定が必要ということになります。

### 2. 「安いから」ではなく「価値があるから」選ばれる意識を持つ

安価な価格設定は、ビジネスとしての自己否定につながりかねません:

– **プロ意識の表明**:適正価格は、あなたがプロフェッショナルであることの宣言です

– **価値提供への自信**:「この価格に見合う価値がある」という自信の表れです

– **正しい顧客との出会い**:価値を理解し、適正対価を払ってくれる顧客との良好な関係構築につながります

「安いから選ばれる」のではなく、「この人/このサービスだから選ばれる」ビジネスを目指しましょう。

### 3. 価格と質のバランスを意識する

価格設定は単独で考えるものではなく、提供する価値とのバランスが重要です:

– **提供価値の向上**:高い価格設定に見合うよう、常にスキルアップと価値向上を図る

– **クライアント体験の充実**:本質的なサービス品質だけでなく、コミュニケーションや対応の質も高める

– **期待値の適切な管理**:約束したことは必ず実行し、可能なら期待以上の価値を提供する

適正価格とは、「高すぎず、安すぎず、提供価値に見合った」価格であることを忘れないでください。

## まとめ:価格は価値の表現であり、ビジネスの基盤

「安ければ売れる」という考え方は、特に個人事業主にとって危険な罠となります。低価格競争は大企業のような規模の経済が働かない個人事業者にとって、持続不可能なビジネスモデルであることが多いのです。

適正な価格設定は、あなたのビジネスの持続可能性を左右する重要な要素です。それは単に利益を確保するだけでなく、適切な顧客との関係構築、自分自身の価値の表明、そして長期的な成長の基盤となります。

「安さ」で勝負するのではなく、「価値」で選ばれる事業者を目指しましょう。それは顧客にとっても、あなた自身にとっても、最も健全で満足度の高いビジネス関係を生み出します。

次回は「集客を軽視し、商品やサービスの質だけに頼る」というテーマで、「良いものを作れば自然と売れる」という幻想について解説します。どうぞお楽しみに。

*この記事は「開業したての個人事業主が陥りやすい失敗談10選」シリーズの第3回目です。個人事業主として成功するための知識やノウハウを、全10回にわたってお届けします。*

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