個人事業主が陥りやすい失敗①:「とりあえず」の開業と明確なビジネスプランの重要性
はじめに
「好きなことを仕事にしたい」「自分のペースで働きたい」という理由で個人事業主になる方は少なくありません。しかし、「とりあえず」始めてみた事業が長続きせず、思うような成果を出せないまま終わってしまうケースも数多く見られます。
本記事では、開業したての個人事業主が陥りやすい失敗の第一弾として、「明確なビジネスプランがないまま開業する」という問題に焦点を当てます。なぜこれが失敗につながるのか、そしてどうすれば回避できるのかを、具体的な事例を交えながら解説していきます。
「とりあえず開業」が招く失敗の実例
32歳の山田さん(仮名)は、会社員生活に疲れを感じ、長年の趣味だった料理を活かした事業を始めることを決意しました。開業の主な理由は「料理が好きだから」「自分のペースで働きたいから」というものでした。
しかし、明確なビジネスプランを持たないまま事業をスタートさせた山田さんは、次のような迷走を経験することになりました:
**最初は料理教室を開講**:「自分の料理の腕を活かせば人気が出るはず」と考えたものの、集客方法がわからず、数ヶ月で生徒はわずか3名程度に留まりました。
**次に惣菜販売へ方向転換**:「実際に作った料理を売れば評価されるはず」と考え、マルシェでの販売を始めましたが、価格設定や原価計算が甘く、利益が出ないことに気づきました。
**次に惣菜販売へ方向転換**:「実際に作った料理を売れば評価されるはず」と考え、マルシェでの販売を始めましたが、価格設定や原価計算が甘く、利益が出ないことに気づきました。
結果として、どの事業も中途半端なまま、1年が経過。開業時に用意した資金も底をつき、結局アルバイトをしながらの細々とした副業になってしまいました。
なぜ「とりあえず開業」は失敗するのか?
山田さんのような「とりあえず開業」が失敗する主な理由は、以下の要素が欠けていることにあります:
1. 市場調査の不足
「自分が好きだから、他の人も好きなはず」という思い込みは危険です。
実際に:
- そのサービスやプロダクトに需要があるのか
- 競合はどのくらい存在し、どう差別化できるのか
- どのくらいの人が、いくらなら支払うのか
これらを事前に調査していないと、空振りに終わってしまいます。
2. 収益モデルの未設計
「売れればなんとかなる」という楽観的な見通しだけでは不十分です。
- 初期投資はどれくらい必要で、回収までにどれくらいかかるのか
- 固定費と変動費はそれぞれいくらか
- 何をいくつ売れば収支がトントンになるのか(損益分岐点)
- 継続的に利益を出すために必要な販売数はどれくらいか
これらを計算していないと、働けば働くほど赤字になる「忙しい貧乏」に陥りがちです。
3. 長期ビジョンの欠如
「今日から明日」の視点だけでは、事業は成長しません。
- 3年後、5年後にどのような姿を目指すのか
- その実現のために必要なステップは何か
- 想定される障害にどう対処するのか
将来像がないまま始めると、目の前の課題に振り回され、一貫性のない経営判断を繰り返してしまいます。
4. 差別化要素の不明確さ
「良いサービスを提供すれば自然と選ばれる」という考えは幻想です。
- なぜ他でなく、あなたのサービスを選ぶべきなのか
- あなたにしか提供できない価値は何か
- 競合との違いをどう伝えるのか
これらが明確でないと、価格競争に巻き込まれたり、そもそも顧客に認知されないままになってしまいます。
対策:効果的なビジネスプランの作り方
明確なプランなしで開業することの危険性は理解できたと思います。では、具体的にどのようなビジネスプランを作成すればよいのでしょうか?
最低限含めるべき5つの要素
1. 事業概要 | 2. 市場分析 | 3. マーケティング戦略 | 4. 収支計画 | 5. リスク分析 |
何を:具体的な商品・サービスの内容 | 市場規模:潜在顧客数と市場の金額規模 | 顧客獲得方法:オンライン、オフライン双方の具体策 | 初期投資:開業に必要な費用の明細 | 想定されるリスク:市場変化、競合参入、資金不足など |
誰に:ターゲット顧客の詳細な定義 | 競合調査:直接競合、間接競合の把握 | プロモーション計画:広告、SNS、紹介など | 月次経費:固定費と変動費の見積もり | 対応策:各リスクへの具体的な対処法 |
どのように:提供方法、販売チャネル | 市場動向:成長しているか、縮小しているか | 価格戦略:競合との比較や利益率を考慮した設定 | 売上目標:月次・年次の具体的な数値 | |
キャッシュフロー予測:最低でも1年分 |
実践例:料理事業のビジネスプラン
山田さんの例を用いて、どのようなビジネスプランが考えられるか見てみましょう。
事業概要 | 市場分析 | マーケティング戦略 | 収支計画 | リスク分析 |
平日夜と週末に開催する少人数制の家庭料理教室 | 周辺5km圏内に該当するターゲット層が約10,000人居住 | ローカルSNSグループでの告知 | 初期投資:キッチン改装100万円、調理器具20万円、広告宣伝10万円 | リスク1:集客が想定より少ない場合 → 対策:オンライン教室の並行開催、出張教室の実施 |
ターゲットは30〜50代の働く女性で、短時間で作れる健康的な家庭料理に関心がある層 | 同様のサービスを提供する教室は2件あるが、高級志向で料金が高い | 地域のフリーペーパーでの広告出稿 | 固定費:家賃相当額3万円/月、水道光熱費2万円/月 | リスク2:競合の参入による価格競争 → 対策:季節のテーマ設定など独自性の強化 |
自宅キッチンを改装して最大6名まで収容できる教室として運営 | 健康志向の高まりから、手作りで栄養バランスの良い料理への関心は増加傾向 | 初回参加者には次回割引クーポン進呈による再来促進 | 変動費:食材費1人あたり1,000円 | リスク3:食中毒などのトラブル → 対策:賠償責任保険への加入、衛生管理の徹底 |
レシピブログの運営による認知拡大 | 料金設定:1回5,000円/人(材料費込み) | |||
損益分岐点:月8回・計40名の参加で達成 |
ビジネスプランは「完璧」である必要はない
「完璧なプランを立てないと始められない」と思い込むことも、また別の落とし穴です。大切なのは:
**考える習慣を身につけること**
市場、顧客、競合、収益について常に考え、情報を集める習慣が重要です。
**小さく始め、検証すること**
まずは1ページのシンプルなプランでも構いません。「なぜこのビジネスをするのか」「誰に価値を提供するのか」を明確にするだけでも大きな違いがあります。
**定期的な見直しと修正**
3ヶ月に一度は実績と照らし合わせ、プランを修正していきましょう。環境の変化に合わせて柔軟に対応することが成功への鍵です。
まとめ:「とりあえず」から「計画的」な開業へ
個人事業主として成功するためには、「好き」や「自由」だけでなく、ビジネスとしての視点が不可欠です。明確なビジネスプランは、単なる書類ではなく、あなたの事業の道しるべとなります。
完璧を目指すあまり行動できないよりも、基本的な要素を押さえたシンプルなプランを持ち、実践しながら改善していく姿勢が重要です。ビジネスプランを作成し、定期的に見直す習慣をつけることで、「なんとなく」から脱却し、目的意識を持った経営ができるようになるでしょう。
次回は「ターゲットが曖昧で、誰に売りたいのかが明確でない」というテーマで、「誰にでも売れる」と考えることの落とし穴について解説します。どうぞお楽しみに。
— *この記事は「開業したての個人事業主が陥りやすい失敗談10選」シリーズの第1回目です。個人事業主として成功するための知識やノウハウを、全10回にわたってお届けします。



















こんにちは、愛知県豊橋市を拠点として全国の中小企業の皆さんの、集客と販売促進のサポートを、デザイナーとコンサルタント両方の視点でサポートしている、販促工房の笹野です。